「自社構築できる」は「全部自分でやる」ではない
AIの進歩で、簡単な管理画面や集計の仕組みを、社内の人がAIと一緒に作れる場面が増えました。ただ「AIと設計の型があれば自社構築できる」という言い方は誤解されやすい表現です。意味するのは「何でも内製する」ことではなく、「何を作るか決める部分」を自分たちが握り、「作業」をAIに任せるということです。
ここで言う設計の型とは、作る前に紙1枚で整理する枠組みです。誰が使うか、何を入力するか、何が出てくればよいか、間違えたとき誰が直すか。この4点が言葉になっていれば、AIは的確にコードを書いてくれます。ここが曖昧なままだと、AIに頼んでも外注先に頼んでも、同じ迷走をします。
外注との線引きを決める3つの問い
線引きは「難しいか易しいか」ではなく、次の3つの問いで決めます。
- 止まったとき、困る範囲はどこまで広がるか
- 個人情報や決済など、責任の重いデータを扱うか
- 作ったあとに保守する担当者が決まっているか
| 業務の例 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 直売所の出荷者別・日別の売上集計 | 自社構築向き | 止まっても手作業で代替でき、項目も自分たちで決められる |
| 観光イベントの参加受付フォーム | 自社構築向き | 繰り返し使い、毎年の修正も自分でできる |
| 加工品の賞味期限・ロット管理 | 併走が無難 | 表示ミスが事故につながるため、確認役が要る |
| ネット決済・会員の個人情報管理 | 外注向き | 責任が重く、事故時の対応も必要 |
新潟の道の駅なら、冬の閑散期に集計表を自作し、繁忙期の決済まわりは専門業者に任せる、という使い分けが現実的です。
たとえば直売所の集計表で、出荷者が午前の便と午後の便で商品を分けて持ち込む場面を考えてみましょう。この「便ごとに分ける」というルールは、現場の人にしか分かりません。だからこそ、入力項目の設計は自分たちで決め、画面づくりの作業だけをAIに頼む形が合います。つまずきやすいのは、ルールを口頭で伝えて済ませてしまうことです。例外のルールも、先に紙へ書き出しておくと、AIの出力を確認するときの物差しになります。
現場でよくある判断ミス
私が相談を受ける中で多いのは、次の2つです。
ミス1: 見積もりが高いから、全部内製に振り切る。 作ることはできても、半年後に直す人がいません。担当者が異動した途端に、誰も触れない仕組みが残ります。
ミス2: 簡単な集計表まで外注する。 項目を1つ足すたびに見積もりと待ち時間が発生し、現場は結局Excelに戻ります。
どちらも「作れるか」で判断しているのが原因です。本当に見るべきは「作れるか」ではなく「直せるか」。直せる人が社内にいるなら自社構築、いないなら外注か、外部の人に併走してもらう形が向いています。
外注するときも、型は自分たちで持つ
外注する場合でも、先ほどの4点を紙1枚にして渡すと、見積もりの精度が上がり、「思っていたものと違う」という行き違いも減ります。つまり設計の型は、内製でも外注でも使えます。外注先に丸投げするのと、型を持って発注するのとでは、同じ金額でも結果が変わります。
見積もりを取る前に、次の順で準備すると行き違いが減ります。まず、4点を書いた紙1枚に、いま使っている帳票やExcelの画面写真を添えます。次に、「特に間違えられない数字」を1つだけ決めます。直売所なら出荷者への支払額です。最後に、納品後に項目を足す場合の費用と待ち時間を、契約前に聞いておきます。ここを聞かずに発注すると、半年後の小さな修正のたびに追加費用が出て、冒頭のミス2と同じ状態になりがちです。
判断の分かれ目は、「間違えたときに誰かの支払いや安全に影響するか」です。影響しないなら、まず自社で小さく試します。影響するなら、作るのは外部に任せ、数字の確認だけ自分たちで持つ併走の形が向いています。
明日やれる一歩
明日、いま紙やExcelで回している業務を1つ選んでください。たとえば出荷者への精算書づくりです。そして付箋に「使う人・入力・出力・直す人」の4点を書き出します。所要時間は10分ほどです。そのあと、上の3つの問いに「はい・いいえ」で答えてみてください。すべて「いいえ」なら、小さく自社構築から試す価値があります。「はい」が残るなら、その部分だけ外部の力を借りる。この順で考えれば、任せる範囲を見誤りにくくなります。