省力化と売上のあいだには「変換」の工程がある

8月の記事「AIで浮いた時間を何に使うか」では、浮いた時間の使い道を守り・攻め・関係・人の4つに分けました。今回は「攻め」、つまり売上に絞って深く掘ります。

省力化が売上に変わらない会社は、時間が浮くことと売上が増えることを同じ出来事だと思っています。実際には「作業が減る」「浮いた時間で売上につながる活動をする」「その活動が実って売上になる」という3段階があり、真ん中の工程を設計しない限り、時間はただ消えます。

もう1つの落とし穴が時間の値付けです。「週5時間浮いた、時給換算で月2万円の削減」と計算しても、給料が減るわけではないので会社のお金は動いていません。省力化の価値は人件費換算ではなく、その時間で何を売れたかで測るべきです。

浮いた時間が売上になる経路は3つしかない

売上は「客数×単価×来店頻度」に、売る場所の数を掛けたものです。このどれかを押し上げる活動に時間を使わない限り、売上は増えません。経路は3つです。

経路 活動の例 先行指標(すぐ数えられるもの) 向いている状況
客数を増やす SNS投稿の継続、観光案内所や宿への情報提供、イベント出店 投稿数、案内した先の件数 来店数が前年より落ちている
単価を上げる 売り場のPOPや提案文、セット商品づくり、加工品の試作 出したPOPの枚数、試作数 客数は安定しているが1人あたりの買い物が増えない
販路を増やす 飲食店や宿への卸提案、ふるさと納税やECへの商品登録 提案した件数、登録した商品数 地元では頭打ち、日によって売れ残りが出る

図1: AIで浮いた時間は「客数・単価・販路」の3経路のどれかに乗せて初めて売上になる

大事なのは、表の右から2列目の「先行指標」です。売上は遅れて動く数字なので、それだけを見ていると途中で手応えがなくなります。提案した件数や出したPOPの枚数といった、自分の行動で今週すぐ増やせる数字を先に決めておくと、続ける根拠が持てます。

道の駅の直売所なら、客数は観光シーズンに左右されて動かしにくい一方、単価と販路は売り場の工夫や提案の数で動かせます。新潟の6次産業の加工所で、地元の直売所だけで売っている段階なら、販路の経路が最も伸びしろが大きいことが多いです。

時間が売上に変わらない3つの漏れ

経路を決めても売上が動かないなら、時間がどこかで漏れています。漏れは3種類です。

1つ目は細切れ漏れです。 AIで減る作業は1回あたり10分や20分の小さなものが多く、1日にばらばらに浮きます。ところが売上につながる活動は、提案文を1本書くにも試作を1回するにも、まとまった1〜2時間が要ります。細切れの時間は「ちょっと確認」に吸われて終わります。対策は束ねることです。毎日20分浮くなら、毎日は使わず、週に1回2時間のブロックとして予定表に固定します。

2つ目は担当漏れです。 AIで事務が減るのは事務担当の時間ですが、卸の提案や試作に動けるのは店長や製造責任者だったりします。時間が浮いた人と売上活動に動ける人が違うなら、浮いた人が動ける人の雑務を引き取り、動ける人の時間を空けるという受け渡しをセットで決めます。

3つ目は指標漏れです。 売上は遅れて動くため、3か月ほど数字が変わらないと「AIの効果がなかった」と結論して活動をやめてしまいます。実際には省力化は成功していて、変換の工程が途中で止まっているだけ、という場合がほとんどです。先行指標を決めていれば、「提案は12件出したがまだ返事待ち」と状況を切り分けられます。

変換の設計を3ステップで決める

自社に当てはめる手順は3ステップです。

  1. 束ねる。 浮いた時間を週あたりで合計し、1ブロックの長さと曜日を決めます。週4時間なら「木曜の午後2時間を2週に1回」でも構いません。
  2. 1つ選ぶ。 3経路から、今の自社の症状に合うものを1つだけ選びます。来店数が落ちているなら客数、客数は安定していて買い物が増えないなら単価、地元で頭打ちなら販路です。2つ同時だとブロックが分散し、どちらの先行指標も積み上がりません。
  3. 測る日を決める。 先行指標の目標(月に提案4件、POP月4枚など)と、12週間後の見直し日を決めます。見直し日には売上ではなく、まず先行指標が積み上がったかを確認し、積み上がっていて売上が動かないなら経路の変更を検討します。

図2: 変換の設計は「束ねる→1つ選ぶ→測る日を決める」の3ステップで、細切れ・担当・指標の3つの漏れをふさぐ

架空の例で流れを追います。6次産業の加工所で、受注メールの返信と出荷案内の下書きをAIに任せ、週に4時間ほど浮いたとします。最初の3か月は「余裕ができた」で終わり、売上は変わりませんでした。そこで木曜午後を2時間のブロックに固定し、地元では頭打ちだったため経路は販路、先行指標は「市内の飲食店と宿への提案、月4件」と決めました。12週で提案12件、うち2件が定期の取引になり、売上が動いたのは11週目です。売上だけを見ていれば、8週目あたりで止めていたはずです。

現場でよくある判断ミス

1つ目は、ブロックの時間を「売上の準備」に使ってしまうことです。チラシの微調整や商品説明の推敲は、相手に届いていないので売上には変わりません。ブロックの中には必ず、提案メールを1通送る、POPを1枚出す、といった相手に届く行為を1つ入れます。

2つ目は、変換の工程を見ずにAI導入そのものを評価することです。「AIを入れたが売上は伸びなかった」という総括は、省力化の成否と変換の設計をひとまとめにしています。切り分ければ、直すべき場所はAIではなく、その後の使い道であることがほとんどです。

明日やれる一歩

明日、AIに任せている作業を1つ選び、その作業で浮いた時間の行き先を「客数・単価・販路」のどれか1つ、紙に書いてください。次に来週の予定表に2時間のブロックを1つ入れ、その中で行う「相手に届く行為」を1つ決めます。提案メールを1通、POPを1枚で十分です。

AIで浮いた時間が「なんとなく消えた」のか「売上になる途中」なのかは、この設計をしたかどうかで決まります。