なぜ顧客リストは「ゆれる」のか
道の駅の直売所、観光施設の予約台帳、6次産業の通販注文。入口が違うと、同じお客様が「(株)新潟商事」「新潟商事株式会社」「ニイガタ商事」と別々に並びます。人が一件ずつ直すと数百件で力尽き、直す基準も日によってぶれます。
たとえば直売所の会員リストと、観光案内所のイベント申込リストを合わせると、同じ旅館が三通りの名前で出てくることは珍しくありません。その結果、お礼状やDMが同じ宛先に二重に届いたり、来訪回数が合算できず、本当の常連が見えなくなったりします。
AIは「同じ人かもしれない候補を出す」作業が得意です。一方で「同一と断定する」のは苦手で、似た名前の別会社を勝手に統合することがあります。そこで役割を分けます。候補出しはAI、最終判断は人。これが名寄せの出発点です。
手順とプロンプト
- 原本を複製する。 作業用シートで進め、元データには触りません。
- 機械的に直せるものを先に揃える。 全角半角、余分なスペース、「(株)」から「株式会社」への置換は、Excelの置換機能で足ります。
- AIに統合候補を出させる。 下のプロンプトを使います。
- 人が確認する。 電話番号か住所が一致すれば採用、迷えば保留にします。
- 対応表を残す。 「ゆれた表記→正式表記」の表を保存しておくと、来月の追加分は置換だけで済みます。
- 月1回、新規分だけ同じ手順で回す。 全件をやり直さず、増えた行だけを対象にすれば、30分ほどで終わる作業になります。
次の顧客リストから、同一の顧客と思われる行をグループにしてください。
条件:
- 会社名の表記ゆれ(株式会社の位置、カナと漢字、全角半角)は同一候補とする
- 電話番号か住所が一致すれば信頼度「高」、名前だけ似ていれば「低」
- 断定せず、理由を一行で添える
- 出力は表: グループ番号/行番号/元の表記/推奨する正式表記/信頼度/理由
- 迷うものは統合せず「要確認」にする
なぜ機械的な整形が先なのか。先に揃えておくとAIに見せる違いが減り、「表記の差」ではなく「実質の差」に集中させられるからです。順番を逆にすると、AIの出力が置換で済む指摘だらけになり、本当に迷う候補が埋もれます。
確認のコツは、信頼度「高」から片付けることです。電話番号が一致する行は数秒で○が付けられ、残った「低」の候補にじっくり時間を使えます。結果の列は元の列を上書きせず、「推奨表記」として隣に置き、○を付けた行だけを反映してください。AIの出力をそのまま上書きすると、間違いに気づいたときに戻せなくなります。
現場でよくある落とし穴
直し過ぎると、かえって困る場面があります。たとえば特産品の贈答発送で、法人は同じでも本店と工場で送り先が違う場合です。顧客名を一本化したつもりが宛先まで消え、別の場所へ届いてしまいます。統合するのは「顧客」の単位にとどめ、送り先は別の列に残してください。
ほかにも、同じ屋号の別拠点、「髙」と「高」のような異体字、個人名や電話番号の扱いに注意が要ります。個人情報は、利用するAIサービスのデータ利用設定を確認し、必要なら電話番号の下4桁だけにして渡すと安心です。
迷ったときの判断の分かれ目
「信頼度:低」の候補は、次の基準で仕分けると迷いが減ります。
- 電話番号も住所も空欄で、名前だけ似ている場合: 統合せず保留にします。次に電話で注文を受けたときや、来店時の記入欄で、その場で確認すれば足ります。
- 個人のお客様で、姓だけが同じ場合: 同じ家族かもしれませんが、別人として扱います。DMの宛名は個人単位のほうが、間違えたときの失礼が小さく済みます。
- 法人名が同じで、担当者名だけ違う場合: 会社としては統合し、担当者は別の列に残します。担当が替わった履歴にもなります。
たとえば、直売所の担当者が月末に「保留」の行だけを印刷し、レジ横に置いておく方法があります。ご本人が来店した際に「ご住所は今も同じですか」と一声かければ、次の月には保留が減っていきます。
結果を確かめる小さな習慣
統合を反映したあとは、必ず件数を見比べてください。たとえば元が600行で、統合後に540行になったなら、60行が重複だったと分かります。ここで極端に減っていたら、似た名前の別会社まで巻き込んだ可能性があります。ランダムに10件を抜き出し、統合前の行と見比べるだけでも、取り違えは早く見つかります。この確認は5分で終わるので、反映のたびに習慣にしておくと安心です。
明日やれる一歩
顧客リストを複製して、先頭の50行だけを切り出してください。それを上のプロンプトでAIに渡し、出てきた表の「信頼度:高」だけ確認する。この1回で、自社のリストにどんなゆれが多いかが見えてきます。かかった時間も測っておけば、全件に広げるときの所要の見当がつきます。ゆれの型が分かれば、置換ルールを足していくだけで、次回の精度は上がっていきます。AIと設計の型があれば、名寄せは自社で回せる仕事になります。