「消える仕事」探しより、棚卸しが先

「AIで5年後に消える職業」といった話題は多いのですが、中小企業の経営者に必要なのは職業単位の予想ではありません。見るべきは自社の業務を1つずつ分けたとき、どれが人の手に残り、どれが機械に任せられるかです。

職業は消えなくても、その中の業務は少しずつ入れ替わります。たとえば道の駅の売り場担当の仕事は残りますが、手書きの在庫表を転記する時間は減っていきます。ここを見分けないと、人手不足の地方ほど「大事な接客の時間」を削り、「減らせたはずの事務」が残る逆転が起きます。

業務を3つに分ける

棚卸しは、業務を次の3種類に仕分けるだけで始められます。

区分 特徴 道の駅・観光の例
残す 相手の顔が見える、信頼や判断が価値になる 生産者との関係づくり、売り場での声かけ、クレーム対応
任せる 手順が決まっていて、繰り返しが多い 日報の集計、商品説明文の下書き、問い合わせの一次返信
手放す そもそも目的が薄れている 誰も読まない月次資料、二重の転記

大事なのは「任せる」を「人を減らす」と読み替えないことです。空いた時間を「残す」業務へ回すための仕分けです。

図1: 業務を「残す・任せる・手放す」の3つに分け、空いた時間を残す業務へ回す流れ

仕分けに使う3つの問い

業務ごとに、次の3つを順に聞いていきます。

  1. 相手は人か、データか。 お客様や生産者と直接やりとりする業務は残りやすく、データを右から左へ動かす業務は任せやすい。
  2. 手順を紙に書けるか。 書ける業務はAIや自動化の対象になります。書けないなら、まず手順を言葉にするところから。
  3. 間違えたときの影響は誰に及ぶか。 お客様や取引先に直接届く業務は、AIが下書きしても人が最後に確認する形にします。

この順番には理由があります。「AIで何ができるか」から入ると、できることに合わせて業務を探してしまい、本当に困っている業務を外します。先に業務の性質を見れば、道具選びは後から決まります。

現場でよくある判断ミス

支援の現場で見かける失敗は、おおむね3つです。

  • 一番目立つ業務から手を付ける。 目立つのは接客や企画ですが、そこは残す側です。地味な転記や集計のほうが効果が出ます。
  • ベテランの暗黙知を「任せる」に入れる。 例えば、天候で仕入れ量を決める勘は手順書になっていません。まず本人に話してもらい、言葉にしてから判断します。
  • 一度で全業務を洗い出そうとする。 100項目を並べて疲れて終わるケースが多い。まず1部署、1週間分で十分です。

たとえば連休明けの直売所では、売上の手入力と欠品確認、SNSの更新が同じ人に集中しがちです。その1週間分を書き出すだけで、「実は毎日30分、同じ表を二度打っている」といった発見が出てきます。棚卸しの価値は、AIを入れる前に無駄が見つかることにもあります。

6次産業・観光の現場に当てはめる

新潟の加工品づくりや観光施設では、繁忙期と閑散期の差が大きく、繁忙期に事務が溜まります。たとえば米菓や日本酒の直売なら、ギフト注文の受付と発送票の作成は「任せる」候補です。一方、蔵や工房を案内して酒や米の背景を伝える仕事は「残す」側で、ここに時間を回せるほどお客様の記憶に残ります。

具体的には、次の判断フローが使えます。

図2: 業務ごとに「相手は人か」「手順は書けるか」を順に問い、残す・任せる・手放すに振り分ける判断フロー

迷う業務は「保留」にして構いません。半年後に見直せば、手順が固まって判断しやすくなります。

明日やれる一歩

明日、自分の1日の業務を付箋かメモに10個書き出してください。 時間は10分で足ります。次に、それぞれに「人が相手」「データが相手」のどちらかを書き添えます。「データが相手」で「手順を書ける」ものが、最初に任せる候補です。

全部を整える必要はありません。1つ選んで、手順を5行で書いてみる。それが5年後も強い会社への最初の仕事になります。